ぼくとー旅行記

どんなに些細な距離であっても、非日常がそこにあるならそれは旅行である。

小さい秋を探しに~Last Autumn 651

初稿: 2023/06/25

2022年11月27日 (D1)

 2022年11月。世間ではE257系5500番台が「あかぎ」や「草津・四万」という謎の幕を表示していて騒がれていた頃です。

 結果は皆さんご存じの通りなのですが、「いよいよ651系引退か?」と思い、急遽651系に乗ることにしました。大回りで。子どもの頃から図鑑などで見て憧れてはいたのですが、まだ乗ったことなかったんですよね、651系

Introduction

 詳しい解説は過去の偉人がネットに上げてくれていると思うので、ざっくりとだけ。目次機能で読み飛ばして下さって大丈夫です。

 ただし結構ややこしく、しかしルール違反を犯してしまうとそれは不正乗車になってしまうので、きちんと調べる必要があります。特にブログやツイッターなどネットにルートを投稿する場合には、不正してないか慎重になるべきでしょう。

大回り乗車とは

 大都市近郊区間内のみの切符は、実際に乗車する経路に関わらず最も安い運賃の切符で発売するというJRの特例があります。詳細は以下。

www.jreast.co.jp

 これは、路線網が複雑に発達した都市部において、利用しやすくするよう切符の買い方を単純化するための特殊措置です。本来切符というのは購入時指定した経路以外乗ってはいけないのですが、具体的に例を挙げるならば、「横浜~新宿」の乗車券を買う場合に「横浜<湘南新宿ライン>新宿」か「横浜<東海道線>品川<山手線>新宿」か「横浜<東海道線>東京<中央線>新宿」かいちいち経路を指定してらんねぇ!というための例外処理です。乗り遅れたら別ルートで行く、とかもザラですからね。

 ではどのようなルートまで許されるのでしょうか。「横浜<横浜線>八王子<中央線>新宿」は?「横浜<東海道線>東京<京葉線>蘇我<外房線>千葉<中央総武緩行線>新宿」は??

 このように、JRの親切心を悪用したのが大回り乗車です。いや?実際の乗車経路で切符を売ってくれるなら買いますよ?でも効率化のために最安運賃でしか売られないしそれを大回りの乗車券に代えてよいというのが法的根拠になります。

 よって、あくまで近郊区間内における面倒な乗車券を最安運賃の乗車券で代用しているにすぎないので、許されるルートは乗車券を発券できるルートに限ります。すなわち、①同じ駅を二度通らない近郊区間を逸脱しないルートが条件です。

 したがって、「国府津<御殿場線>沼津<東海道線>小田原」とかはアウトです。御殿場線が近郊区間に含まれないので。実際の経路で乗車券を買って下さい。またややこしいのですが、「東京<横須賀線>西大井<湘南新宿ライン>新宿」はアウトです。同じ駅は二度通ってないのに。これは、湘南新宿ライン運賃計算上品川駅を通過している設定らしいので、大崎~品川を二度通っている判定を喰らうからです。でも西大井以西から乗れば…?あと他に犯しやすい間違いとしては、これはあくまで乗車券に対する特例なので、定期券は対象外です。お気を付け下さい。バレないから平気?でもそれ詐欺になりますよ。

 では「横浜<湘南新宿ライン>新宿<中央線>東京」は?

 

分岐駅通過の特例

 乗り換えたいのに列車が通過しちゃうからどうしても行き過ぎちゃう!という場合にJRが認めてくれた特別ルールがこの通称「分岐駅通過の特例」です。

 JRが指定した分岐駅を通過する列車に乗っている場合に限り、行き過ぎた分は不問にしますよ、という特例です。あくまでJRが指定した駅に限るので、「東京<東海道線>横浜<京浜東北線>鶴見<南武線>武蔵小杉」とかはアウトです。どこが指定された駅なのかは、下記のJRのページをご参照下さい。

www.jreast.co.jp

 これは乗車券に対するルールであり、大回り乗車も正規の乗車券を使用しているので当然適用されます。したがって、上述の「横浜<湘南新宿ライン>新宿<中央線>東京」は代々木~新宿が重複しますが代々木を通過する列車に乗る限りセーフです(代々木~新宿に乗ってない判定をされる)。本特例適用区間では(乗ってない判定されるので)途中下車出来ないという制約はありますが、大回り乗車はどうせ元々途中下車できないので関係ないでしょう。

 

 という訳でルール説明は以上です。他にも知っておくとトクする折り返し乗車の特例はありますが、今回の記事では出てこないので割愛いたします。是非、調べてみて下さい。

 

草津1号:赤羽(1010)~高崎(1118)

 なんで始発駅の上野駅から乗らないんだ!という話ですが、上野~高崎は101.4 kmなのに対し、赤羽~高崎は100 kmを切るんですよね。これが何の役に立つのかというと、自由席特急料金は50~100 kmなら950円、一方で100~150 kmは1360円です(JR東日本のB自由席特急料金)。つまり、赤羽から乗れば400円ほど特急券が安くなるのです。セコいですね~。まあ、セコいから大回り乗車するのです(開き直り)。

赤羽駅に残る、いにしえの記憶

 という訳で、赤羽駅4番線で特急列車を待ちます。東京都内の駅なのに、115系の表示とかが残っているんですね。

タキシード爺さんの入線

 そして定刻通りに651系特急草津長野原草津口行が入線してきます。長編成が行き交う都内の駅に、7両で入線してくるのは不思議な感じです。

 それにしてもやはり651系、重厚な見た目でカッコイイですね。この651系常磐線の花形特急「スーパーひたち」として最長で上野~仙台を結んでいた交直流特急型電車です。伝統を感じさせるボンネット様の先頭形状ながらも(当時の)旧来の特急とは一線を画す白を基調とした塗装、豪華な客室、在来線初の130 km/h対応など時代の最先端を行っていたスゴい車両なのです。常磐線では新車(E657系)に置き換えられ過酷な運用から引退しましたが、(交流用装備が停止された上で)高崎線特急に活躍の場を移していました。それから数年経って、E257系が高崎線特急の表示をテストし始めたというのだから、雲行きが怪しいと言わざるを得ません。もう、いいお年ですからね。

LED画面で映す温泉の絵がニクい

 短い7両編成の特急草津は、ホームの中程に停車します。途中駅で停車時間は短いので、さっさと自由席である1号車に乗り込みます。赤羽から乗る人はほとんど居ませんでした。

この方向幕も、都内では絶滅危惧種

 それでも車内は混雑。自由席はほぼ満席です。指定席はわかりませんが、検札の車掌さんが間に合ってなさそうでした。流石日曜朝イチの観光地行き特急ですね。どこぞの踊り子とは偉い違いです。

小ぶりなLEDが可愛いですね

 車内放送が終わると検札が回ってくるので、発券した特急券を提示します。こうやって検札でハンコ押してもらうの、結構好きなんですよね。最近は指定席では検札を省略することが多いので、自由席では検札の機会があって嬉しいです。まあ、新幹線でしょっちゅう検札されても鬱陶しいので、指定席での検札省略はアリだと思いますけど。

ちょっと嬉しい「入鋏済」

 さて651系、乗り心地は良いですが、内装が落ち着いた色合いで「観光に行くぞ!」って感じの雰囲気ではないですね。まあ、「あかぎ」が本業なのでむしろ合ってるんでしょう。それでも旅行の人々で、車内は賑わっています。

遠くに山々が見えてくると、北上した実感が湧いてきます

 どこぞの「あかぎ」と異なり「草津」は速達タイプ。浦和・大宮・熊谷と停車するとあっという間に高崎です。降りる人は0ではありませんでした。赤羽から約1時間、小旅行としてはちょうどいいんじゃないでしょうか。

高崎の空気は、少し冷たい気がした。
八高線高麗川行:高崎(1156)~高麗川(1325)

 乗ってきた「草津」を見送った後、次に乗る八線線が入線するまで時間があるので、高崎駅を見学します。

 まずはまた、別な651系が回送としてやって来ました。こうして見ると、だいぶ傷だらけですね…。引退の噂が出るのも頷けます。

「回送」の表示すら身だしなみ

 東京ではもう見られない車両に再会できるのもまた、大回りの魅力です。211系を見ると懐かしい気持ちになりますね。以前は上野や新宿、東京もコイツが占拠していたものです。

最後?の近郊型車両

 そして東京から一時間のこの地に、ディーゼル音を響かせてキハ110系がやって来ました。東北のヌシがこんなところに!?まあ、高崎はSLも走ってますからね、何でもアリかもしれません。

数少ない関東の気動車

 という訳で、とりあえず乗っとけば何か旅行した気分になれる大回り乗車の安牌こと「八高線」に乗っていきます。なお、八高線高崎線の分岐駅は倉賀野駅なので高崎~倉賀野が重複乗車となりますが、今回は前述の分岐駅通過の特例でセーフです。特急に乗っておいたことに意味があった訳ですね。大回りで八高線を始発から乗るには、こうして特急を使うか両毛線を使うかしかありません。

 ところで車窓は、落ち葉降り積もる林の中をディーゼルの重低音をベースに走り抜けるので、何か旅行した気分になれます。秋の柔らかな日射しが、冬の眠りに向かう森林を優しく包み込んでいました。

川越・八高線高麗川(1330)~八王子(1418)

E231系サラダ味

 川越線八高線の関係は複雑で、高崎~高麗川~八王子が「八高線高麗川~川越~大宮が「川越線」なのに、運転系統は高崎~高麗川/川越~八王子/川越~大宮に分かれています。なので、高麗川~八王子は八高線といっても実質川越線のようなものです。でもダイヤはしっかり接続が考えられており、八高線川越線の乗り継ぎはスムーズにいきました(ちょっと電車遅れたけど)。川越線南武線武蔵野線あたりは何か車両のイメージが被りますよね。

 さて車内は電化区間なだけあって、結構混雑しています。短区間での乗降も多く、乗換駅の拝島ではわりと車内が入れ替わりました。このあたりも武蔵野線のイメージと重なりますね。

横浜線:八王子(1420)~橋本(1432)

 川越線は無事終点の八王子駅に到着。おそらく接続が考慮されているダイヤだと思うのですが、中央線がど真ん中ででかい顔をしており、想像より乗り換えはギリギリでした。あれ、でも八王子駅って思ったよりしょぼ…

 この辺はかつて、色々な直通運転があって各路線の交流が盛んだったと思うのですが、すっかり整理されてしまいました。分かりやすくはなりましたが、少し寂しいものです。昔は相模線も八王子まで来ていた気がするんですが…。

 地味に東海道新幹線駅とリニア(予定)駅を結んでいる路線。にしてはちょっと活気が足りない気がします。そんなんじゃ京王・小田急にデカい面されちゃうよ!

相模線:橋本(1439)~茅ヶ崎(1535)

 相模鉄道(私鉄)とは別。でも元々は相模鉄道だったとかいうややこしい路線。割と大きな所も通るのに、栄えてるのは私鉄側という悲しい路線。こんなところに新車が導入されたなんて、予想できただろうか。当然JR東おなじみの自動放送も搭載。あの自動放送、騒がしい都心では気になりませんが、こういう閑散線区を走ると妙に車内に響き渡って、冷たい印象を受けてしまうんですよね。

上野東京ライン茅ヶ崎~尾久

 さて東海道線に出会えたので、スタート地点の手前の尾久駅まで乗車します。本当は、東十条とかギリギリを攻めればもっと安い乗車券で済んだんですけど、面倒くさくなりました。尾久駅も昔はブルートレインとか並んでいて壮観だったのに、今や寂しくなりました。それでも車両基地隣接の列車線単独駅という独特の雰囲気は健在です。

 という訳で、一筆書きの乗車はここまで。改札を抜けます。十中八九自動改札は通れない(タイムアウト)ので、駅員さんに「大回り乗車です」と告げて出してもらいます。悪いことをした訳ではないので、変に挙動不審にならずに堂々と。最早大回り乗車もありふれているので、特に何も言われずに出してもらえるのが大半です。オタクに詳しく話を聞くのも面倒だしね。そしてすぐさま踵を返し、Suicaで改札を再度通過。帰路についたのでした。

おわりに

 面倒なルールさえ守れば、少額の出費で小旅行を楽しめる大回り乗車。起点・終点・ルートと可能性は無限大です(いや有限ではあるけど)。是非皆さんも、自分だけの旅に出かけては如何でしょうか。そして乗車券自体は安く済んでいるのですから、特急やグリーン車に課金して、JRにお金を落としてみるのもオススメです。旅情を引き立て、課金額に見合う価値を感じられることでしょう。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。