ぼくとー旅行記

どんなに些細な距離であっても、非日常がそこにあるならそれは旅行である。

二つのたにがわ

初稿: 2023/09/18

2021年9月12日 (M2)

 お盆ですので、無くなった鉄道車両の思い出を一つ。と思って書き始めていたら、いろいろ忙しくてすっかりお彼岸になってしまいました。もう、2年前の旅行なのですね。

Maxとき313号:大宮(0953)~越後湯沢(1049)

東京から乗れば良かったですが、値段が結構違うんですよね

 早速記事タイトルに偽りアリなんですが、上越新幹線に乗って越後湯沢に向かいます。車両は勿論、往年の名車E4系です。

正面から見ると圧巻の巨体

 まさに走るヌリカベといった巨体。ホームから見上げるときの圧迫感たるや、他の車両では味わえません。そして正面から見たときの角張った肩がイイですよね。限界まで人を乗せる気満々です。これが240 km/hで爆走するなんて信じられません。

今日の新幹線はキミのおかげ

 そう、この時期はE4系新幹線の最末期。引退が発表されたE4系に乗るのが今回の旅の目的の一つです。思えば本来は10年前にE5系に置き換えられて引退してたはずなんですが、震災があって引退は先延ばしにされてしまいました。そして上越新幹線に隠居し、E7系と交代する予定も、台風で長野が水没してE7系が先に廃車になる…と数奇な運命を辿ってきた系列です。中々予定通りにいかない晩年でしたが、ある意味、老体に鞭打って東北新幹線の復興と北陸新幹線の未来を支えてくれたという訳です。去りゆく老兵に、乾杯。

ドアが小さく見えるバグ

 途中駅たる大宮駅では停車時間は長くないので、さっさと乗り込みます。普通の新幹線より幅広のドアですが、車高が高いのもあって目の錯覚で小さく見えてしまいます。

新幹線から消えた、階段

 車内に入ると、早速Maxならではの階段がお出迎えです。東海道線グリーン車とかで見覚えのある階段ですが、新幹線の舞台からは消えてしまいました。ラッシュ時には鬱陶しいでしょうが、この階段を昇るワクワク感は忘れられません。高速走行中に通る場所ではないと思いますがね。

いつもより「高い」座席

 せっかくMaxに乗るので2階席を…と思ったら、直前の予約なので普通車の2階は満席。でもグリーン席には空席があったので迷わず予約。2階ならではの下界を見下ろす感覚がたまりませんね。

グリーン車は人がまばら

 想定外の出費でしたが、普通車は混雑していたのでこれが正解だったかもしれません。おちついた車内でゆったりと2階からの車窓を満喫できました。

 グリーン車といえど、2階建てなので天井の圧迫感はありましたが、東京近郊の在来線グリーンで慣れているので問題ありません。座席も幅広のゆったりとしたものですしね。それよりも、新幹線の防音壁を乗り越えて上から眺める景色が、非日常感を刺激します。

みんなに大人気なE4系、Thank you

 道中、熊谷ではE4系の横断幕が掲げられていたり、車掌さんが車内放送でE4系の思い出を話していたり。私もE4系に思いを馳せながら、流れゆく車窓を眺めるうちに越後湯沢駅に到着。終点まで乗りたかったですが、今回は用事があるのでここで下車です。

斜めで見ると、意外とスマートなフォルムなんですよね

 ホーム上の人も、みんなE4系の写真を撮っていきます。こんだけ存在感があるヤツです。居なくなってしまったら、喪失感も大きいでしょう。

 さよなら、Max。どうせなら、初期の塗装に戻して欲しかった気もしますが。

ありがとう、キミを忘れない

 駅構内には、E4系ラストランへのカウントダウンと、寄せ書きパネルが設置されていました。個人的には何故かE4系は「たにがわ」で、「とき」は200系かE2系のイメージですけど…。わざわざこんなものが設けられるなんて、みんなに愛されている車両だなと改めて感じました。そりゃそうですよね、オール2階建て最大16両が240 km/hで爆走するんです、インパクトあるに決まってますよ。鉄オタじゃない人でも、「500系のぞみ」と「E4Max」は知ってるイメージがあります。少なくとも、歴史に残る名車であることは間違いありません。オール2階建て新幹線といえばE1系が先ですが、あれは居住性の悪い印象が広まっている感があります。300系的存在ですね。

夏山が爽やか

 という訳で越後湯沢駅です。かつては北陸へ向かう要衝でしたが、今はその影もありません。スキーシーズンは繁盛していると思いますがね。

 新潟名物へぎそばを食べて、駅の日本酒館で試飲しながら、時間を潰します。

快速谷川岳ループ:越後湯沢(1353)~大宮(1721)

「快速 大宮」…ってここ越後湯沢ですよ

 急遽越後湯沢行を決めたのはこれのため。もう一つの往年の名車、485系「リゾートやまどり」に乗車します。

「臨時」表記に心が躍る鉄オタ

 いわゆる「ジョイフルトレイン(死語)」最後の生き残り。最早「国鉄型特急車両」の面影はありませんが……。

これでも485系最後の生き残り

 車番はしっかり「485系」です。モダン()な外見でもこの車番が、静かに、堂々と、威厳を示しています。直流交流50Hz/60Hz、電化さえされていれば日本全国どこの路線でも走れるこの車両は、正に「国鉄」といった車両です。

空からやまどりを見てみよう

 パンタグラフもしっかり交直両用のやつですね。カッコイイ。

リゾートやまどり

 お座敷列車からさらに改造を受けたという長い歴史を持つ「リゾートやまどり」。登場当初は「リゾート草津」とかいって特急運用に就いていた気がしますが、いつの間にやら走る機会も減り、引退が噂されるようになりました(当時)。まあ485系なんて、骨董品ですからね。なのになぜ185系はまだ生きてるんだ…。

連結部(車内)

 

 新潟といえど、暑いホームで待っていると、ようやくドアが開いたので早速乗り込んでみましょう。デッキは流石に年季を隠せない感じですが…。

ジョイフルトレインのワクワク感

 車内設備は、旅を楽しませる工夫が随所に見られます。「リゾート」の名に恥じません。まず先頭車両には大きな窓に展望フリースペースが設けられています。まあ、鉄オタらしき集団が占拠してましたが。

グリーン車よりも快適な座席

 座席は、全車普通車ですが2+1配置とグリーン車顔負けの居住性です。横幅を持て余しますね。一人旅なので本当はC席(1列席)に座りたかったのですが、取れたのはA席でした。まあ直前まで見張っててギリギリ取れた座席なので、文句言ってはいけませんね。ちなみにB席にも人は乗ってきましたが、あまり鉄オタって雰囲気ではありませんでした。

ジョイフルトレインの車内設備

 揺れる車内で撮ったのでブレブレですが、リゾートやまどりの車内紹介です。「イベント列車」といった設備があることが分かります。

ミーティング室「和」

 これは和風なフリースペース。使っている人は見ませんでしたが。もっと長距離列車だったり団体列車だったら、活用されたのかもしれませんね。赤ちゃんとか転がしておくのにもちょうど良いのかもしれません。この時点ではもう、赤ちゃんとは無縁なオタク専用列車になってましたが。

土合で少し羽休め

 そうこうしているうちに、列車は越後湯沢を発車し上越線名物「土合駅」に停車します。上越線といえば、この駅は外せませんからね。土合駅を味わうためか、19分の停車時間が設けられていました。流石は観光列車。

 ……という訳で。味わいますか、土合駅

行きはよいよい

 土合駅名物、めちゃくちゃ長い階段(462段)です。下り線ホーム(1番線)が山の中(トンネル内)にあるため、1番線ホームに行くにはこの階段を延々と降りなくてはなりません。まあ、やまどりが停車している上り線(高崎方面)は地上にあるので、1番線に降りるだけなら簡単です。急いだら5分程度で到達しました。そう、降りるだけなら。

日本一のモグラ

 残暑厳しい2番線ホームとは対照的に、1番線はヒンヤリとした空気が出迎えます。洞窟といった雰囲気で、遠くには霧がかかっているように見えます。トンネル形状に対して線路が偏っていることから、かつては通過線があったのでしょう。

地の底から這い上がれ!

 トンネル内でもう少し涼んでいきたいところですが、そうはいきません。なぜなら462段残っているからです。

 さて、階段を見上げると地上が見えない!今どのへんか分かるよう、階段の端には1番線ホームからの段数が記載されているのですが、それが逆に絶望を与えてきます。

階段を登り終わっても、2番線まで距離があるので注意

 やまどりに乗り遅れないよう、死ぬ気で階段を駆け上ります。地下水で濡れてて登りづらいとか言ってる場合じゃありません。何とか間に合いましたが、ぽんしゅ館のお酒が効いてきます。土合駅観光は19分じゃ無理です。そんなカツカツのダイヤじゃないんですし、もっと停車時間を確保してもらえないでしょうか。

名物ループ線

 息を切らせながら土合駅を出発すると、「谷川岳ループ」の列車名の通り、車掌さんがループ線を紹介する放送を入れます。鉄道にとっても、この高低差は大変なようです。

大宮駅到着

 途中、高崎線の人身事故の影響で交代する車掌が辿り着けないトラブル等もあったものの、無事大宮駅に到着です。新幹線なら1時間かからない行程を、3時間半かけて旅する長旅でした。まあ、土合駅でエネルギーを使い果たして、その先をあまり覚えていないんですが。でも長旅で疲れない、素晴らしい乗り心地だったことは記しておきます。

おわりに

 E4系もリゾートやまどり(485系)も、今はもう乗れないのは残念ですが、最後に乗ることが出来て本当に良かったと思います。(やまどりを「485系」として扱っていいのかは分かりませんが、まあ通常の485系も乗ったことあるので……)

 こうして今も元気に走っている車両も、いつかお別れの日は来るわけで。乗れるうちに乗っとかないとな、とおセンチな気分になる日帰り旅行でもありました。今の私を乗り鉄に駆り立てるのは、何度も走ってるところを見ておきながら、583系に乗れなかった後悔なので。

 乗れる列車は乗れるうちに。会える人は会えるうちに。出来ることは出来るうちに。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。